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3-F

2010.06.15 *Tue
一日中誰も使うことのない空き教室。
初めて入ったときは、あたり一面埃だらけで。
放課後から閉門ギリギリの夕方6時まで、一生懸命に掃除した。
こんなこと、絶対一人だったら途中で飽きて帰っていたと思う。
でも、いつも隣にいてくれるあの人のおかげで、私は頑張れた。
いや、むしろ楽しんで掃除に励んでいた気がする。
「別に今日中に終わらせなくたって構わないんだから。ゆっくりやっていいのよ?」
そんな声をかけられても、私は箒を掃く手を緩めず黙々と埃をかき集めていた。
だって、これから始まることを考えるとわくわくして仕方がないから。
とにかく、今日のうちに準備を終わらせておきたかった。
掃き掃除の次は、床を雑巾がけ。それが終わったら、今度は別の雑巾に変えて黒板をより深い緑色に染めていく。
かつて現役だったころの、本来の教室の姿が。時間を巻き戻されるように再現されて。
「見違えるほどに綺麗になって・・・。お疲れさま。」
「お姉さま、少しは手伝ってくれてもいいじゃないですか・・・。」
額に汗を垂らして少し呼吸が乱れている私に、お姉さまは白いタオルを優しく当ててくれる。
それだけで、こんなちょっとした不満も簡単に吹き飛ばされてしまう。
「だって、私こういうことには向いてないもの♪」
こんなことで騙されてしまう自分が悔しい。
「私の手は、あなたにしか触らせたくないの。」
これで落ちてしまう自分が何とも情けない。
でも、どうしようもない。好きなんだから。
毎日言葉をかけられる度に、それを実感する。

勝手に学校の空き教室を占拠したのは、ただふたりでいる時間が欲しかったから。
お店に行けば他にたくさんの客がいるし、家にいれば誰かしら家族がいる。これはお姉さまの方も同じらしい。
学年が違うので、授業中は一緒にいられない。放課後だって、完全にふたりだけの時間は作れない。
さらに、お互いの家が反対方向の電車を使わないと登校できない位置にあることから、お姉さまと会えるのは校門をくぐる際のわずかな時間のみ。
それだけじゃ、全然足らなくて・・・。もっとたくさんの時間を、お姉さまと一緒に過ごしたい。
そんな思いをお姉さまは察してくれたのだろうか。2階の階段の踊り場、一緒に歩いていられる最後の時間に、お姉さまは私に耳打ちする。
「放課後、3階のF教室に来て。」

密やかに、そして緩やかに。
1日3時間、ふたりだけのときを楽しんだ。
お姉さまは、自由奔放な人。大掃除に励んだ翌日、3-Fに入ると昨日にはなかった小型の冷蔵庫が設置されていた。中を開けると、ふたつのケーキと、手前には紙パックのアイスティー。
「お昼休みに、こっそり抜け出して買って来ちゃった♪」
「あの・・・。中に入ってるものは確かに分かるんですけど、この冷蔵庫自体はどうやってここに?」
これに対するお姉さま答えは、私の想像をはるかに飛び越えるものだった。
「なるちゃんに車出してもらっちゃった。買い物もそれで済ましたの。」
実はお姉さまは体調を崩しやすいので、保健室へ頻繁に出入りしていて鳴海先生とも良く知れた仲であるらしい。あの先生も結構いい加減なところがあるけれど、まさか職務をほったらかして生徒と学校を抜け出して車で買い物に行くだなんて・・・。
あれ?それってもしかしなくても鳴海先生はお姉さまとドライブ・・・。
呆れるはずの相手に私はもやもやした感情をぶつけたくなったけど、白衣をまとった長身の女はそこにはいない。
「お姉さま?何かされませんでしたよね・・・。」
「さぁ、どうかしら?」
そんなことを言うものだから、私はとっさに声を大きくしてしまいそうになる。息を吸って、最初の一文字が出かかったところで。
私の口はお姉さまの右手にがっしり掴まえられた。
「大声出したら、誰かに見つかるわよ。」
私は無言で首を縦に振る。それを合図に、お姉さまは余った左腕で私の背中に手を回して引き寄せて、口を覆っていた右手は私の左肩へと回る。
「私の手と、私の体の全て、触れていいのはあなただけよ。」
そして、お姉さまは今日初めて私の名前を口にする。
「愛してるわ、沙織。」
それだけで、私の心からはあの白衣の女のことなど消え失せていた。
「私もです。愛美お姉さま。」
鼻先が触れそうな距離から、少しずつ縮まっていく。
「ん・・・。」
ようやく訪れた、温かな感触。体の芯から満たされて、指先まで体温が上昇していくような、不思議な感覚。
一度唇が離されて、もう一度。今度はお姉さまの舌が私の中に入ってくる。ひょっとして、お姉さまはこの先も進めてしまうのだろうか。大声を出さないでと言われたのに、このままでは守れないような気がする。
ふと、冷蔵庫に入ったままのケーキのことを思い出した。
「沙織?何か他のことを考えてる?」
「だって・・・。もし誰かに見られたら・・・。」
「この1年間誰も使わなかった隅っこの教室、今は放課後で生徒は部活か帰宅組に分かれて誰もいない。文化系の部活だって、この階の教室を使ってるところはひとつもないのよ?誰にも見つかるわけないじゃない。」
お姉さまは自由奔放。なのにとても用意周到で。
「さっきと言ってることが違う気がします・・・。」
「だって慌てる沙織が可愛いから♪」
そしてお姉さまはたまにいじわるだ。
お姉さまは少し考えるような仕草を見せて。
「まぁ、ひとつ不安要素があるとすれば・・・。なるちゃんかも?」
私に再度あたふたさせる種を蒔いた。
「お姉さま、絶対に隙を見せないで下さいね。あの人、何だか怪しい感じがします。」
昼休みに学校を抜け出して生徒を車に乗せてしまうような先生だ。お互い自由奔放な性格なこともあって、何だか馬が合ってるように見える。
しかもお姉さまは保健室の常連様で、鳴海先生はきっと私の次に多くの時間を過ごしている人であるに違いない。
「せっかく買ってきたのだし、一緒にケーキ食べよっか。沙織。」
お姉さまは、悶々と思索に耽っていた私を現実へと引き戻す。
私は「そうですね。」と一言置いて、冷蔵庫を開いてケーキを手前に・・・。
「あ、ひとつ言い忘れてたことがあるのだけど・・・。」
お姉さまが皆まで言う前に、私は全てを理解した。
「これじゃふたりだけの場所になってないじゃないですかぁ・・・。」
ケーキが取りだされた冷蔵庫の奥には、小さなプリンと、そして使い捨てのプラスチックスプーンが眠っていた。
「だって、これが条件だったんだもの。嫌なら、他に場所を探してみてもいいけれど・・・。」
別に冷蔵庫なんて無くてもよかったのに・・・。お姉さまは、どこか抜けているところがあるのがたまにキズ。
「沙織とふたりでケーキ食べたかったの。」
なのに、全て許せてしまう。こんなストレートに言われてしまっては、責める気になんてなれるわけがない。

ひとつの机に、ふたつの椅子で向かい合って。
同じタイミングで、同じ苺ショートを口に運ぶ。
幸せな時間を、噛みしめるようにゆっくりと。そして穏やかに。

「きっと、どこかにあるわよ。
ふたりだけの場所。」
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