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hallucination

2010.07.15 *Thu
「瑠奈って朝起きるの早いのね・・・。目覚めのキスで起こしてあげようと思ってたのに。」
時計に目をやると、8時を指していた。いつもお昼ごろ待ち合わせをするというのに、今日はやたらと早かった。しかもアポなしで。
綾乃には家の合鍵を渡してある。自由に出入りしていいし、家にあるものは何を使っても構わない。つまり私たちは、そういう関係なのである。
ほんの一瞬、寝てればよかった、なんて思ったりしたのは、内緒。
綾乃がベルも鳴らさずに鍵を開けて上がり込んできたとき、私はトーストにはちみつを編み目状にめぐらしてひとくち頬ばろうとするところだった。
綾乃は案の条、朝ご飯を食べていないというので、私のトーストを半分分けてあげる。綾乃は相変わらず甘えたがりで、「あーん♪」なんて催促してくる。私は右手で綾乃の背中を支えて体を寄せて、左手でちぎったトーストを口元へ運んでいく。綾乃は私の指に付いていたはちみつも一緒に舐めとっていくように、指先に温かい感触を残していった。
「うん。美味しい。」
私は残っていたパンを次々と綾乃の口に放り込んでいく。だって、あんな可愛い食べ方されたら、自分のお腹を満たすことなんて二の次じゃない。
それに、たまに指先が綾乃の唇と触れる感触がたまらなくて、何だか癖になってしまいそう。
「あれ?瑠奈、全然食べてないんじゃない?
今度は私が食べさせてあげる。」
そう言って綾乃は、私の皿に手を伸ばしてトーストをちぎって、私の口へとゆっくり持っていく。
「ほら、あーん♪は?」
どうも私は甘えるのが苦手で、綾乃に対してワンテンポ遅れてしまう。
「あ、あーん。」
どうにもぎこちなくて、可愛くない仕草だと自分を客観視する。せっかく綾乃が食べさせてくれているのに・・・。
「あ、後は自分で食べるからっ。」
私は残り二口分くらいのパンを一気に口へ入れ、むくれる綾乃を横目に心の中で謝罪の言葉を重ねる。
「ほんと、瑠奈はされるのが苦手なんだから・・・。」
それ、何か別の意味が含まれているような気がするんだけど。


綾乃の行動は自由気ままだ。
私が身支度を整えて掃除や洗濯をしている間、綾乃は私のベッドに潜り込んですやすやと寝ていた。珍しく早起きしたものだから、今になってまた眠くなったのだろうか。
6月も半ばのこの時期は、湿度が上がって布団を被って寝ていると暑苦しい。私はタオルケットをお腹に掛けて冷えないようにして眠りにつくのだけど、今ベッドを占領している綾乃は、横になって私のタオルケットを丸めて、そこに顔を埋めている。
何だか嬉しいやら、恥ずかしいやら。
「ほらほら、そんな物より実物の方がいいでしょ?」
私は自分のタオルケットを回収して、今度はその場所に私の体を滑り込ませる。
「うん。あったかーい♪」
私の懐に潜り込んで、頬ずりしてくる綾乃。今日はいつにも増して甘えモード全開で、朝からこの調子がずっと続くことを考えたらもう天国にも昇る気持ちだった。
ただ、ひとつだけ不満があるとすれば。今日はあいにくの空模様だということ。起きたときからしとしと、断続的な雨は午前中の間振り続けるらしい。
ここで私はひとつの疑問が浮かんだ。何故綾乃は、こんな雨の日に、わざわざ朝早く私の家に来たのだろうか。
特に理由はないのかもしれない。綾乃はふと思いついたことをパッと行動に移すタイプだから、単に私に早く会いたくて朝起き抜けに飛び出してきたとも考えられる。それはそれで、胸が飛び上がるほど嬉しいことだけど。
でも、ときどき綾乃はその一見気まぐれな行動に、自分でも自覚していない何か深いものを隠し持っていることがある。そして私は、綾乃
のその部分に一番惹かれている。彼女がただの元気で明るくて可愛い、そういうだけの人だったら、私はきっと好きになってはいない。
私は空想にふけっている間、すっかり言葉を発することを忘れていた。綾乃を見ると、また先ほどと同じように目を閉じて、私に無防備な姿を晒している。今日はこんな天気だし、外に出るのも億劫だ。このまま一日中綾乃とベッドの中でのんびりいちゃいちゃして、あわよくば綾乃のいろんなところを堪能してしまおうとかまたも意識が彼方へトリップしていこうとした、その瞬間に。
「ねぇ、綾乃。」
私は彼女の言葉に、惹き込まれた。
「都合の良い雨だと思わない?」


「雨の音に耳を澄ませて。
すごく心が落ち着くよ。」
普段抱き合っているときより、さらに綾乃が私の中で解け合うような。
雨粒のひとつひとつが、私たちに祝福の音色を奏でてくれている。そんな気がした。
「外の景色も、太陽が照りつけてるより優しい感じ。綺麗だよね。」
草木から滴が垂れ落ちる様子など、特にそう感じる。そういえば、最近は庭の手入れをすっかり怠っていた。所々雑草が目立ち、枯れた花が一輪、そのままになってしまっている。
「せっかく素敵な演出をしてくれているのに、その舞台がこれじゃお粗末よね。」
紫陽花なんてあったら良い景色になってただろうな、なんて今更になってちょっと後悔しつつ呟いてみる。
「明日、雨が降らなかったら夕方にでも草取りから始めようかな。
花は・・・。夏に向けて考えてみるのもいいけど、雨に似合いそうなのをすでに咲いているもので買ってきても・・・。」
私の脳内コーディネートは綾乃の言葉によって遮られる。
「そんなに頑張らなくてもいいよ、瑠奈。」
え・・・?」
よく意味が分からない。別に私は頑張っているつもりなどこれっぽっちもないのに・・・。
「瑠奈の気持ちは、すっごく嬉しいの。私を楽しませよう、喜ばせようって、いつも考えてくれて。デートのプランは、いつも瑠奈が立ててくれる。
今日だって、雨じゃなかったら本当は行きたい場所があったんでしょ?」
そう。昨日の段階では、もし天気予報が外れて雨が降らなかったら。いや、そうであることを祈って、10時になったら綾乃に電話するつもりだった。
「2丁目に新しいカフェがオープンしたから、一緒に行こう」って。
でも、それを綾乃が知っているってことは・・・。
「もしかして、綾乃にあの本見つかっちゃった?」
綾乃は、数秒ためらうようにして、そしてばつが悪そうに首を縦に振った。
「ごめんね。詮索するつもりはなかったんだけど・・・。
でも、どうしても気になっちゃった。瑠奈は毎回いろんなところへ私を連れていってくれるけど、いったいどうやって探してるんだろうって。」
瑠奈はきっと、私が先週買ってきた雑誌の、赤ペンで○をつけてあるページを発見したのだろう。そういえば、今朝からずっとノートPCの隣に置いてそのままにしておいたことを忘れていた。
「綾乃は、どこか行ってみたいところはないの?いつも私が決めてばっかりだったから。」
気がつくと、いつも自分のことしか頭にない。私の悪い癖だ。
「別にどこか行こうとか考えなくてもいいよ。」
私はその言葉を聞いて、息が詰まりそうになった。もしかして、綾乃は本当は行きたくない場所なのに、私が行くからと言って合わせていたのでは・・・。
頭の中で、いろんな想像が掛け巡る。主に、悪い方向での。
「瑠奈は考え始めるとすぐに黙りこくっちゃうよね・・・。」
ようやく思考の渦から解放された。私はこうやって、何度も綾乃の言葉で現実と自分の世界との意識スイッチの切り替えをさせてもらってる。
おそらく私は、綾乃がいなかったらとっくに自分の中に入り込んでしまっていたと思う。
「私は、私のために頑張ってくれる瑠奈を見るよりも。
そのままの、ありのままの瑠奈が好き。」
心臓を貫かれたような熱さが。
「瑠奈のいるところだったら、いつだって隣にいたい。」
じわじわと。
「私はどこにもいなくならない。瑠奈の側を離れたりしない。」
脳に伝わった刺激が、今度は指先に。
「だから、瑠奈は私のために頑張らなくてもいいの。」
綾乃が、私の体を包み込んでくれる。
体と、そして心で。
本当の意味での安心を、生まれて初めて知ったような気がした。


「都合の良い雨・・・ね。
確かに、そうかもしれないわね。」
朝起きてこの雨を見たとき、私はもどかしくて仕方がなかった。
でも、今になって思い返せば、この雨は私を立ち止まらせてくれたように感じる。もし今日が晴れだったとしたら、私はあのデートプランを引っさげて外へ飛び出していたに違いない。
「もしかして、綾乃がこんな早く私の家に来たのって・・・。」
「別に深い理由なんてないよ。今日はたまたま早く起きちゃっただけ。」
綾乃が言うのならば、そういうことにしておこう。
深く考えすぎるのは、私の悪い癖だ。
「早く恋人に会いたいって思うのは、当然でしょ?」
またも串刺しにされる、私の心。
しとしと弱い雨が一転、激しさを増してくる。
「これからもっと、雨は強くなる。今日はこのままずっと、瑠奈と抱き合っていたい。」
ぎゅっと引き寄せられて、直に綾乃の体温が感じられる。
綾乃の顔が、ゆっくりと近づいていき。
とろけるようなくちづけ。
今までにない気持ちよさは、綾乃からしてくれたからだろうか。
そういえば、キスするときはいつも自分の方からしていたような気がする。
一度離されて、一息ついたらすかさず再度密着させられる。
今度は、ぬるっとした感触が身体を支配して。ぞくぞくするような、痺れにも似た快感が。
隅々まで舐めとられ、掠めとられて。
「瑠奈は、もっと自分のことをよく知った方がいいよ。
瑠奈は、私のことを可愛い可愛いって言うけれど。
本当に可愛いのは、瑠奈の方。」
途端に自分の顔が真っ赤に染め上がっていくのがわかる。
「そんなことないって・・・。」
あまりにも恥ずかしくなって、私は思わず両手で顔を隠す。
「ほら、私によく見せて?隠しちゃだめ。」
綾乃は強引に私の顔から手をはぎ取って、さらにキスを重ねていく。
「ふふ。」と妖艶に笑った、今まで見たことのない綾乃の姿。
「私、全部覚えてるよ。瑠奈が私にしてくれたこと。
デートで行ったお店のことも。
夜のベッドで私にしてくれたことも、何もかも全部。
ありがとう。瑠奈。
今日は、私に任せて。」


雨音が激しくなる。
私と綾乃を、世界から隔離する。
泳いでるみたいな感覚。
ふわふわして、波間をただよって。
断続的に続くノイズ、雨音が思考に適度な隙間を与えてくれる。
本当に都合がいい。
綾乃は、どんなふうに感じていたのだろうか。
今、私はどんな顔を綾乃に見せているのだろうか。
本当に、綾乃は全部覚えていた。
触り方も、手順も、何もかもすべて。
そして、私のポイントを見つけてアレンジを作り上げていく。
とても同じ時間だけ耐えられるとは思えない。
「我慢しちゃだめだよ?ちゃんと見ててあげるからね。」
息継ぎが塞がれて、ちょっと乾いてしまった口に潤いが与えられる。
その間にも、綾乃の指は動きを止めることなくうごめき続けて、全身が痺れるような快感に支配される。
素潜りでいえば、ここが一番深いところ。今度は陸に上がらなくてはならない。
苦しいけど、焦ってはいけない。体に力が入ってしまっては、泳げないから。
そっと差し伸べられた手。綾乃が優しく微笑んでいる。
私より一回り小さい手。それなのに、ずっと頼もしそうに見える。
指先が触れた瞬間。温かくて、優しくて、涙が出そうになる。
ねぇ、綾乃。
「ありがとう」は、私が言いたかった言葉よ。
あなたがどれだけ私の心を支えてくれたか、計り知れないくらい。
私は受け取ることが苦手で、どうしたらいいかわからなくなってしまうから、だから綾乃にたくさんあげようって。
私の出来る限りのことをしてあげようって、そう思ってた。
でもそれは、本当の意味で綾乃のことを見ていなかったのかもしれない。
綾乃だって、私の手を取って歩きたいんだってこと。
二人で一緒に歩いていきたいってこと。
綾乃は、私の受け取る姿を可愛いって言ってくれた。
自分ではまるで信じられないけど、でも、綾乃が言ってくれた言葉だから、何よりも信じられる。
ありのままの私を好きだって、言ってくれたから。


水面に手を伸ばして、突き破った瞬間。
視界は一気に明るさを取り戻した。
完全に体が陸地に上がったとき、雨はすでに止んでいた。
体にはどっと疲れがこみ上げてくる。でも、私の心は海に潜る前よりもずっと軽かった。
きっと、綾乃が私の心を浄化して、海に流してくれたんだと思う。
時刻は、12時を指していた。ちょうどお腹も空いてきたころだし、午後からは一転してお出かけ日和となりそうだ。
ちょっと地面に水たまりが残ってたり、雨が上がった湿気で余計に蒸してたりしそうだけど。
でも、私は今とても外に出歩きたい気分。
きっと、今日のデートは、今までのそれとは比べ物にならないくらい楽しいものになるんだって。
これは、ただの予感じゃなくて、しっかりとした確信そのものだから。
「綾乃。お昼、どこか食べに行こうか。」
「2丁目にオープンしたカフェじゃなくて?」
私はくすっと笑い、綾乃の手を取って。
二人一緒に、歩み出す。
「歩いてれば、そのうちすぐ見つかるわよ。」

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